シェービング
技術情報

シェービング

高強度ばね材料とシェービング

自動車のエンジンに使用されるばねはバルブスプリングあるいは弁ばねと呼ばれています。このばねが壊れるとエンジンの停止という事故に至るため、ばねおよびばね材料には非常に高い精度と信頼性が要求されます。弁ばねの特徴は毎分約1,000回の速度で作動し、10万km走行すると、1億回以上という高サイクルの繰り返し応力を受けることにあり、ばねおよび材料としては、耐疲労性に優れていることが何より要求されます。

ばねの耐疲労性に影響を及ぼす大きな要因のひとつに材料起因の欠陥があります。この欠陥の代表的なものに、材料の表面にあるきずと鋼材内部の非金属介在物があげられます。これらの欠陥は、ばね加工する際に折損を生じるだけでなく、ばねとして自動車エンジンに搭載後、疲労破壊の原因となります。そのため、弁ばね材料ではこれらの欠陥が全長にわたり存在しないことが求められています。

弁ばね用鋼線の素材は一般のばね用素材と異なり、製鋼段階で非金属介在物を極力低減する特殊な製鋼法が適用され、かつ、ビレット(鋼片)で厳格なきず手入れが行われています。その後、熱間でビレットからロッド(線材)に圧延されますが、この時、加工きずが発生する可能性があります。しかし、この圧延は時速時速200km以上もの速さで行われるため、微細なきずの検出・位置特定は極めて困難です。そのため高い信頼性を得るために、弁ばね用鋼線はその後の製線工程の中で、表面欠陥を全面的に取り除くシェービング(皮むき)という方法が用いられています。

1960年代のモータリゼーションに伴い、弁ばね材料に高強度材が適用されるようになりましたが、高強度材はきずに対する感受性が強く、信頼性の点に課題がありました。弊社はこの課題解決のため、当初は回転グラインダ方式の研削によりきずの除去を行っていましたが、この方法ではきずの除去が不十分であるという理由と、きずに匹敵する研削痕ができることから、昭和40年より逆さダイスを用いて、線材の表面を0.1~0.2mm程度、皮をむくようにそっくり除去するシェービング技術を自社開発しました。

このシェービング技術はすでに非鉄材料、特に伸銅材の鋳造時に表面に集積された不純物を取り除くのに用いたり、アルミ線などにも使用され始めていましたが、鉄鋼材料の場合は非鉄材料より硬いため、その適用が非常に困難で、実用化されていませんでした。しかしながら、シェービングダイスや装置などの研究を重ね、実用化に成功しました。この結果、ばねの疲労特性に影響を及ぼす表面欠陥の除去が工業的に可能となりました。図1にシェービングの効果を示すばねのS-N曲線を示します。シェービングによって表面欠陥を除去した材料によるばねは、シェービングを行わなかったそれと比較して、ばね疲労特性に優れていることがわかります。

このように、現在の自動車エンジンはシェービング技術により支えられていると言って過言ではないでしょう。また、このシェービング技術は高強度ばね材料だけでなく、冷間圧造用ステンレス鋼線の表面きずの除去にも用いられています。

▲シェービングされた鋼線