精密微細放電加工用電極線
技術情報

精密微細放電加工用電極線

SPワイヤ今このページをご覧になっているパソコンには、CPUと呼ばれるIC(集積回路)が用いられています。このICは数ミリ角程度のシリコンチップの上に、トランジスタ、抵抗、コンデンサなど10万個以上の回路素子を組み込み、互いに配線して一体化した非常に微細構造なものです。このチップ上の微細な回路と外部との間で電気信号のやりとりをするためには、リードフレームという厚さ約0.13mmの薄い銅合金板を介して行われます。このリードフレームの形状は、リードと呼ばれる細い足が多数狭い間隔で並んでいるのが特徴です。
リードフレームの製造方法には、プレス技術で金属片を打ち抜くプレス加工法(スタンピングとも呼ばれる)と金属片を溶かして抜き出すフォトエッチング法があります。それぞれメリット・デメリットがありますが、金型を用いたプレス加工法は大量生産に適しています。近年、集積回路の高密度化に伴い、信号伝送の導体となるピンの数が多くなり、リード部のピッチは150ミクロン前後まで狭くなってきており、その際、非常に微細な加工が要求されています。

このような微細精密加工をプレス加工で行うためには、用いる金型も非常に精度の高いものでなければなりません。その製造にあたってはワイヤカット放電加工(Wire Electric Discharge Machining:Wire-EDM)という細い金属線を電極とし、電極もしくはワークを目的とする形状に倣って移動させながら、放電によりワークを溶かして切断する加工方法が用いられます。

一般的な放電加工の電極線には、放電特性に優れた黄銅系の材料(以下黄銅線と称す)が広く用いられていますが、微細精密加工には強度が低く使えません。このような場合、従来はタングステン、モリブデンといった高融点金属が用いられていましたが、黄銅線に比べ導電率や放電特性に劣り、かつ極めて高価であるという欠点がありました。当社が開発したSPワイヤは、中心部が高強度のピアノ線、表層部が放電特性に優れた黄銅層としたハイブリッド構造を持ち、コストも従来の高融点材料より優れている微細精密加工用の新しい電極線です。

電極線に要求される特性には、いろいろありますが、微細精密加工用電極線としては、放電特性、強度、直線性の3点が重要です。

放電特性 微細精密加工用金型としては、切断面がなるべく平滑であることが望まれます。そのためには、電極とワークの間できめ細かく、かつ安定したパルス放電が起きることが必要です。このような放電条件を満たすためには黄銅が有効です。SPワイヤはピアノ線の心線に黄銅被覆を施していますので、従来の黄銅線と同等の放電特性が得られます。また、この黄銅層における銅と亜鉛の比率を変えることも可能です。
強度 放電加工によりワークを切断していくと、電極線はさまざまな理由から、わずかながら振動が発生し、切断の溝幅が広がるとともに加工面の平滑性も低下させます。その防止には強い張力をかけることが極めて簡単かつ有効ですが、黄銅は強度、弾性係数ともに低く適していません。そのため、従来はタングステンやモリブデンといった高強度、高弾性係数をもった材料が用いられていました。
ピアノ線のパテンチングという熱処理と伸線加工により得られる4000MPaを超える強度は、実用材料の中でもまれな存在で、SPワイヤはその特徴を巧みに利用しています。素材には極細線用として非金属介在物の組成制御された新日鐵住金(株)の特殊な過共析鋼線材を用い、高強度と断線の少なさを得ています。最終パテンチング処理後、表層に黄銅層を形成し、その後、伸線加工を行って高強度を得ます。この時、表層の黄銅層の厚さはワイヤの強度と放電特性のバランスから、直径の5~10%としています。図1に放電加工用の各材料の強度、放電加工性、面粗度の特性およびコストの比較を示します。
SPワイヤの強度はタングステンに及ばないものの、黄銅線より高強度で、放電加工時に発生する放電熱、ジュール熱に対しても250℃以下で使用する限りほとんど無視できます。
直線性 金型によっては複数の閉じた曲線からなる孔を持つ形状のものがあります。その場合、ひとつの加工ごとに電極線を抜いて、次のスタート孔に電極線を通して加工をしなければなりません。近年の放電加工機は、電極線を自動的に入れ直す自動結線機能が装備されていますが、自動結線の成功率は設備の性能もさることながら電極線の直線性に大きく左右されます。SPワイヤは真直性に優れているため、自動結線時のワイヤ起因のトラブルは皆無と言っていいほどです。

以上のようにSPワイヤは、タングステン線に匹敵する微細精密加工性と黄銅線並み放電加工性を備え、放電加工の世界に新風を巻き起こしたユニークな材料です。性能はタングステン線の2倍、コストは1/3で、微細精密加工用としてコストパーフォーマンスに優れていることがおわかりいただけたでしょうか。

なお、冒頭では微細精密加工の代表例として、リードフレームのプレス加工金型を取り上げましたが、SPワイヤを用いた微細精密加工例としては、リードフレーム以外にも化学繊維の紡糸ノズル、インクジェットプリンタノズル、時計の微細歯車用金型、コンピュータ、通信機器コネクタのプレス加工用金型など多岐にわたっています。